ストリートチルドレンを考える会
…子どもたちの未来のために……
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2008年03月

2008年03月15日

2008年3月発行のニュースレターより

キューバを旅して・「Dame un peso…(1ペソ恵んで・・)」を耳にしなかった一週間

 日下部 真記
「ラテンアメリカのストリートチルドレン」。これが私の卒業論文のテーマ。昨年の夏、毎年「ストリートチルドレンを考える会」が実施しているメキシコへの旅に参加する予定でいたが、日程が合わず断念。そんな時、工藤さんが独自に企画するキューバツアーのことを知った。逆にストリートチルドレンのいない国の教育システムも見てみるのも良い機会だと思い、即申し込んだ。社会主義国ということに少し不安を抱きながら。
 メキシコからキューバに入った。キューバに着いても、メキシコ人と同じ言語(スペイン語)を話すせいか、メキシコにいるような感じがした。しかし、街並みは同じラテンアメリカでもまったく違った。タイムスリップしたようだった− お店がない、広告がない。スペイン語にもなまりがある。どうしても以前留学していたメキシコと比べてしまう。街中がメキシコカラーに華やかに装飾されていたメキシコから、社会主義国であり、質素な街並みのキューバの首都ハバナに飛んだから、余計にそう感じたのかもしれない。正直な話、キューバに着いた当初は愛着のあるメキシコに戻りたいと思った。しかし、だんだんと居心地が良くなっていく。キューバもラテンの国。陽気で気さくな人たち。「Hola, chinita(こんにちは、東洋の娘さん)!」と何度言われただろうか。
 今回、様々な教育施設を訪ねることができた。保育園、小学校、中学校、芸術教員養成専門学校、自閉症の子どものための学校、視覚障がいを持つ子どものための学校、識字運動博物館。
 いろんな教育施設を訪れて、キューバの子どもたちはしっかりした自分の考えを持っている、と感じた。私たちが質問すると素直な答えが返ってくる。保育園を訪れた時、「絵を描くことは好き?」という私たちの質問に、子どもたちは元気よく「好き〜!」。これで終わると思っていた会話を先生がつなげた。「どうして好きなの?」。子どもたちは「楽しいから〜!」「おもしろいから〜!」。どうして?と理由を聞くことが教育上の指導なのか、おしゃべり好きのラテン人だからの質問なのかはわからないが、このことがどんな時、場合でも意見を言うことができ、何より自分に自信を持つことにつながっていると、私は思う。例えば、カストロ議長(当時)と子どもたちが話す機会があった時には、子どもたちは議長に向かって堂々と意見を言ったらしい。私はそんな子どもたちの勇気に、非常に驚いた。
 訪ねた教育施設の一つ、自閉症の子どものための学校「Dora Alonso(ドラ・アロンソ)」では、子どもたちのために教室に色々工夫が施されていた。自分の教室がどこかわかるように、各教室の入り口にはその教室で勉強する子どもの顔写真が張ってある、時間割表は文字ではなく絵である、などだ。また、親にも家庭での教育を指導するほか、親の集まりには、祖父母や叔父、叔母まで参加し、出席できない場合は近所の人たちが代わって行く。「子どもはすべて私たちの子どもであり、宝だから」と当たり前に言うキューバの人たち。今の日本では考えられない愛情の深さに、本当に驚いた。でもこれは少し前の日本にもあった姿ではないだろうかと思う。
 このように今回、キューバで私は近頃の日本人が忘れかけている相互扶助の精神、思いやりの心を痛感し、家族のつながり、地域の力を改めて見つめることができた。愛情でいっぱいのキューバ。メキシコのように、路上で子どもに、Dame un peso (1ペソ恵んで)、と言われることはなかった。キューバの子どもたちがストリートチルドレンにならない理由が、少し見えた。学校へ通い、教養を身につけ、自信に満ちあふれている子どもたち。これからのキューバ社会を引っ張っていく子どもたち。そんな子どもたちに、期待したい。
 最後に、今回のツアーの企画・案内をしてくださった工藤さん、篠田さんをはじめ、様々なことについて語り、一緒にすてきな思い出を作ったツアーの仲間6名、多くの方に感謝しています。本当にありがとうございました。
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芸術教員養成専門学校の教師や生徒たちとツアーの仲間
【補足】
 私が通っている京都外国語大学が昨年、創立60周年記念国際シンポジウムを開催するにあたって、特別講演者としてキューバのカストロ議長(当時)の長男フィデル・カストロ・ディアスバラルト氏(キューバ科学技術評議会補佐官)を招いた。07年夏私がキューバに行ったことを知った教授に、カストロご夫妻と在日キューバ大使ご夫妻のアテンドを依頼された。とても緊張したが、やり遂げることができた。キューバツアーに参加していなければ舞い込んでこなかった話。このツアーに参加したことによって、一生に一度の貴重な体験ができた。
(くさかべ まき・大学生)

Posted by at 11:15

路上の子どもたち 悲痛な叫びは社会への警告

毎日新聞2008/02/10 オピニオン「発言席」記事より一部転載 *オリジナル版
      
工藤律子(ジャーナリスト)
 仲間と運営するNGO「ストリートチルドレンを考える会」のホームページの掲示板に何年か前、高校生の少女が、よくある質問とは少し違う内容の書き込みをした。
 自分は将来、福祉関係の仕事がしたいと思い、ストリートチルドレンのことも気にかけている。今はまず家出をしている同級生の力になりたい。そんな内容だった。その後の対話の中で、私は彼女の友人が父親に虐待を受け、家を飛び出し、ネットで知り合った男性の家に居候していると知った。彼女はその友人のために、相談先や施設を探しながら、偶然目にした私たちの団体のホームページに、何か情報がもらえるかもしれないと、書き込みをしたようだった。このとき私は、以前から気になっていた問題が身近な事実として突きつけられたと感じた。
 「ストリートチルドレン」に関する国際人道問題独立委員会の報告が日本で書籍として出版されたのは、1988年。以来、世界の都市の路上に生きる子どもたちの数は減るどころか、かつてはそうした子どもの姿がなかった旧社会主義圏でも見られるようになった。今は恐らく一億人を越える子どもたちが、何らかの形で路上を主な生活の場にしているだろう。
 前述の書籍の中で、当時 TBSディレクターだった堂本暁子・現千葉県知事は、彼らと比較して日本の子どもたちのことを、「隠れストリートチルドレン」と呼んだ。画一的な管理・競争社会に生きることに苦しむ日本の少年少女たち。彼らは「ストリート」に出る自由さえ持たないストリートチルドレンだ、と言うのだ。心に傷を抱えていても、じっと耐えるか、不登校、いじめ、非行、薬物乱用、プチ家出、自殺といった形で痛みを解消することしか許されない。その苦しみは年々深まるばかりだ。先の高校生との出会いは、そんな現実の一端を示していた。
 私はラテンアメリカやアジアの都市で18年間、路上に暮らす小さな友人たちを見つめ続けてきた。NGOの仲間の中には、日本のいじめや自殺の問題を調査する人もいる。そんななか、20年前に危惧された状況が、経済のグローバリゼーションとともに、「第三世界」のみならず「先進国」でも益々深刻化していることに、危機感を抱いている。 
 戦争地域を別として、「ストリートチルドレン」と呼ばれる子どもたちはほとんどの場合、親や家族を持つ。その親や家族のそばに居場所をなくしたために、路上へ出ている。「第三世界」では多くの場合、それは貧困家庭の子どもだが、経済的貧困そのものが子どもを追い詰めるのではない。世界的な経済成長の波に乗ることのみが幸せへの道だと思い込まされ、焦り、余裕をなくし、「心の貧困」に陥って子どもを愛せなくなったおとなに、追い詰められるのだ。路上暮らしをする子どもたちの多くは、家庭で何らかの虐待を受けた体験を持つ。
 路上暮らしを選んだ子どもたちは、自力で生き抜くたくましさを持つ反面、心の傷を癒そうと、薬物、性産業、犯罪などの罠にはまり、抜け出せなくなる。待ち受けているのは、薬物依存、精神疾患、HIVを含む性感染症、望まない妊娠、監獄、そして死。長年のメキシコの友人で十年間路上にいた少女(22歳)は、「路上時代の友人は皆、薬物のやりすぎでフラフラしていて車にはねられたり、病気になったりして死んだわ」と語る。
 薬物依存、鬱をはじめとする精神疾患、HIV、死といった問題は、実は日本の子ども・若者の間でも増えている。世界の子どもたちの悲痛な叫びは、今注目を集める地球温暖化などの問題とともに、私たちに警告している。「個性や思いやりを否定した競争による技術の進歩と経済発展・成長のみが幸福をもたらす」という意識、思いこみを捨て、社会を再構築しない限り、人類に未来はないことを。

Posted by at 11:36

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