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パンガラップ5日間滞在記

~フィリピンツアー参加者・特別レポート~ 
パンガラップ5日間滞在記

小口 由貴

 私はツアーに参加し、ほかの参加者よりも10日間長くフィリピンに滞在し、そのうちの5日間はツアー中に訪問したNGO「パンガラップ・シェルター・フォー・ストリートチルドレン(以下、パンガラップ)」に滞在させてもらった。パンガラップの施設にはどのような子がどのような思いでいるのか、ということを含めて、彼らのことをもっと知りたかった。

 私が朝、パンガラップに一歩足を踏み入れると、必ず聞こえてくるのはバスケットの音。フィリピン人の国民的スポーツと言えば、バスケットである。ここ、パンガラップでも、バスケットのネットが揺れない日はないほど、ほとんどの子どもたちは、毎日バスケットをして楽しんでいる。その中でもひと際きれのある動きをする15歳の少年がいる。

 「お母さんは天国に、お父さんは刑務所に、それから…、バゴンシーラン・フェーズスリー(彼はパンガラップに来る前、この地区で路上生活をしていた)だよね」と、私。よく覚えているじゃん!とでも言いたそうな顔をして、「えっと、クルクル…だったよね」と、今度は彼が私のメールアドレスを思い出す。私のアドレスを一度、二度見ただけで完璧に覚えてしまった彼は、「また学校に行って、勉強をしたい」という希望を抱いて、パンガラップへやって来た。彼は6月から学校へ通い始めるらしい。今までの遅れがないように、他の仲間と一緒に補習授業を懸命に受けている最中だった。

 お昼頃になると、午後から授業がある子どもたちは学校に行くための準備に取りかかる。シャワーを浴びたり(彼らは日に3回シャワーを浴びるらしい)、前の日に洗濯したシャツを取りに行ったり、それにアイロンをかけたり(彼らにとってアイロンは必需品!)、髪の毛をセットしたり、と忙しい。私はその渦にまぎれて、彼らのロッカールームをのぞきに行った。そこには、簡素な感じの古い木製ロッカーがずらりと並んでいたが、彼らのロッカーの中を見て、私は「おぉー」と感嘆の声を上げたくなった。それほどきれいに整理整頓されていたからだ。ロッカーの中には、しわひとつなくたたんである洋服や小物が整えられて置かれていたり、戸の裏側にセンスよく装飾がされていたり。一人ひとりが、自分のロッカーを自分の部屋のように誇りにしているかのようだった。彼らはきれい好きだし、器用な面も多くある。彼らと同じくらいの年齢で、制服のワイシャツに自分でアイロンをかけている若者は、日本にはあまりいないだろうな・・・そう思うと、彼らから見習うべきことも沢山あるな、と感心してしまう。

 感心したことと言えば、もうひとつある。あるとき、ロッカータイムのベル(ここではロッカーを開ける時間が決まっている)がジリリリィーと鳴り、「ちょっと待ってて」とだけ言い残してロッカーへ行ってしまった17歳の少年。少ししてから、以前靴が入っていたと思われる箱を大事そうに抱えて戻って来た。何が入っているのだろうと興味津々でいると、出てきたのは、彼が今までにもらったラブレターどっさり。フィリピンの若い人たちは、よくラブレターを書くことは知っていたが、それを捨てずにコレクションにしていたのにはびっくりした。というか、感心した。

 そんな彼は、パンガラップに来る前はギャング(スラムの非行少年団)の一員でドラッグをやっていたけれど、パンガラップに来てから、「自分自身、変わったんだ!」と強調していた。しばらくしてから、「2、3日のうちに、家に帰る」と彼。

「えっ、何で?」

 「いつも(施設内で)ケンカばかりしていて、この間、最後のチャンスをもらったんだけど、それもダメにしちゃったんだ。だから、家に帰らざるを得ないんだよ」と、悲しそうに彼は言った。しかし、自分の問題で家に戻らされても、パンガラップが好きだという。きっと、どん底に落ちそうだった彼に希望を与えてくれたパンガラップの存在は大きかったのだろう。

「俺はここが好き。だから、すごく寂しい気持ち。これからもパンガラップには来るよ」

 あたりが暗くなってくると、パンガラップの子どもたちは昼間のようにはしゃいだ雰囲気ではなくなって、しんみりしてくる。暗闇の中で、人の気配があり近寄ってみると、少年が2人。「何をしているの?」と聞くと、これからの人生について話しているという。15歳と20歳。歳は離れているが、映画を製作する仕事に就きたいという共通の夢を持っていて、パンガラップの中で2人は親友同士だ。

 20歳の彼は、ストリートで暮らしていたときに、ストリートエデュケイターに声をかけられて、パンガラップへ来た。パンガラップへ来たときには、義母に虐待されていたトラウマがなかなか離れなかったらしい。「ストリートにいては、将来がない」と語る彼。職について、自立できるまで、まだまだパンガラップにいるつもりだとも話していた。

 「もし、自立したらパンガラップの手助けをしていくつもり」

 彼もまた、自分をここまで支えてくれたパンガラップに感謝しているようだった。

 最後に、JAPANのひとつずつの文字を使って作ったこんな文章を教えてくれた(頭文字だけつなげて読むとJAPANになる)。ずっと昔に彼が作ったものらしい。

 Just Always Pray At Night.

 ここにいる子どもたちは皆、それぞれ何らかの夢や希望を持って、パンガラップに滞在している。ちょっとの夢と、ちょっとの勇気があれば、何でもできるのかな、と彼らから教えてもらった気がする。

 彼らはいつも、夜にどんな夢を神様に祈るのだろう。今度会ったら、彼らに聞いてみたい。

(こぐち ゆき)

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