2006夏メキシコツアー参加者の感想文

 鷲頭一希(大学生)

 今年、卒論の研究テーマ「メキシコシティのストリートチルドレン」のフィールドワークとして、初めてNGO「ストリートチルドレンを考える会」が主催するメキシコツアーに参加させていただいた。私自身、小学生のときにメキシコシティに住んでいたことがあったが、そのときに、メキシコシティの路上で生活する自分と同じくらいの年の子どもたちに衝撃を受け、日本に帰国してからも「なぜ?」という疑問が残り続けていた。これをきっかけに、将来は国際協力の仕事がしたいと思うようになり、大学では文学部の国際文化学科に入学した。そして4年になり、卒論を書くにあたってテーマを選ぶ際に、再びメキシコシティのストリートチルドレンについて考えてみようと思い、実際にメキシコシティに行くことを決めた。

 ツアーの初日は、不安だらけだった。「一緒に行くのはどんな人なんだろう?なじめるだろうか?」「スペイン語は大丈夫だろうか?」などなど…とりわけ、子どもたちとちゃんとコミュニケーションが取れるかどうかが、何よりも心配だった。スペイン語の能力の問題だけではなく、ドラッグや虐待により傷ついた子どもたちを前にして、日本の大学生の自分なんかに何が理解できるのかということを考えながら、1日目の夜はベッドに入った。

 しかし、その不安は実際に活動に参加するうちに吹き飛んでしまった。子どもたちの笑顔が、私の気持ちを変えてくれたのだ。確かに子どもたちの気持ちを理解するのは難しいが、それよりも自分にできることを精一杯して、子どもたちから多くのことを吸収して帰ろうと思った。日本にいる間、「ボランティア=何かをしてあげる」ものではないとわかっていたつもりなのに、無意識にそう考えていた自分に激しい嫌悪感を抱いた。

 ツアーでは、「ジョリア」「カサ・アリアンサ・メヒコ」「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」「オガーレス・プロビデンシア」「マチンクウェパ」「カサ・アリアンサ・メヒコ」の6つのNGOを訪問したが、それぞれ独自のプログラムを持っており、とても勉強になった。それと同時に、職員の多くの苦悩も聞き、「大変な仕事なんだなあ」と改めて思った。どの施設にも子どもたちの笑顔があふれており、スタッフの愛情に満ちた子どもたちへのケアが感じられた。私は日本にいるとき、ストリートチルドレンは「かわいそう」なものだという先入観を持っていたが、実際それは違った。子どもたちがストリートの生活から抜けられないのは、路上の生活自体に大きな魅力があるからなのである(それは自由だったり、ドラッグだったり、セックスだったり…)。

 ストリートエデュケイターと一緒に路上に出て活動した日もあった。私が見たのは、16〜17歳位の男子3人組だった。この子どもたちは、時速100キロ近く出してる車がビュンビュン通る大通りのすぐそばの芝生で犬5匹と生活しており、私たちが子どもたちの所へ行くのも、本当に命がけだった。さらに衝撃的だったのは、子どもたちがエデュケイターの話を聞いている間、もてあそんでいた小石だった。エデュケイターから「あれは、コカインの一種(ピエドラ)だよ」と聞いたときは、実際にドラッグを目の前にしたショックと、メキシコシティではドラッグは食べ物を買うよりも安く手に入ってしまうという現実にいらだった。

 毎日が本当に充実していて楽しかったが、それと同時に多くのことを考えさせられたツアーだった。私たちは男3人部屋だったが、毎晩その日経験したことや、ストリートチルドレンや貧困問題について真剣に話し合った。ストリートチルドレンが生まれる背景には、「貧困」という世界レベルの大きな問題があり、これが解決されない限り路上から子どもが消える日は来ないだろう。現実的には、私たち一人ひとりがそれを解決するためにできることは、小さなものでしかないかもしれない。しかし、このツアーに実際参加して強く感じたのは、まず私自身がこの事実から目をそらさないこと、そして多くの人々にこの事実を伝えていくことが大事であるということだ。世界の、日本の、私の周りの人々がこの問題を知り、目を向けることからすべては始まるのではないか。

 私たちが感じたことを人々に正確に伝えるというのは、容易なことではない。それでも、伝え続ける努力がメキシコシティの、いや世界の路上から子どもたちを救う一助になると、私は信じている。それに加えて、私にできる範囲でストリートチルドレンを保護するNGOへの支援を行っていきたい。

 私にとって第二の故郷でもある、メキシコシティ。この町の路上からいつの日か「ストリートチルドレン」の子どもたちの姿が消えることを願いつつ、私にできることを常に考えながら、毎日の生活を送りたい。そして、子どもたちが見せてくれた笑顔を胸に、私にとっての第一歩、卒業論文に取り組んでいきたい。

 最後に、ツアーを主催してくれた(工藤)律子さん、篠田さん、そして通訳の方々や現地NGOの職員の方々、楽しいツアーにしてくれた参加者のみなさんに感謝します。ありがとうございました。

 

戻る