チカのメキシコ留学日記 その2

メキシコにおける「家族」

 

 

       

 

                              会員・山下千佳

 どうして日本はあんなに子どもがいないの?日本に行ったことのある友だちに聞かれた。1ヶ月間日本にいたけど、数えられるくらいしか子どもに会わなかったよ。確かに。日本で何人の子どもたちを見かけるだろう。ここメキシコは、子どもたちであふれている。子どもを見ない日はもちろんないし、1日に見かける子どもの数は、数えきれない。家の近くでボール遊びをする子どもたち、広場ではしゃぐ子どもたち、テレビゲームをお店にやりに行く子どもたち。子どもの笑顔があふれているだけで、町自体が明るく見える。子どもは大きなパワーを持っていると感じる。

 私がグアナファトの町にきて、3ヶ月。ひとりっこ、きょうだい仲が悪い、という言葉は聞いたことがない。たまに2人きょうだいの人もいるが、たいてい3人から5人である。仲が良く、よく一緒に遊びに出かけているし、きょうだいの話ばかり聞く。年齢に関係なく、家族を大切にしている。もちろん、私たちも家族は大切だが、それ以上に深いというのか、家族への愛情が私たちより多いと思う。大学生は毎週末、実家に帰り、週末は家族と過ごす。家族と離れているときは、両親に電話をする。自分が元気でやっているということを、必ず連絡するのだ。

 また、母の日は、クリスマスに続いて、一大イベントだ。その日は祝日となり、母親とはなれて生活している人たちは実家に帰る。前日から、パーティーの準備を行い、母親に日ごろの感謝をするのだ。その日はみんな家族と過ごすため、お店が閉まる時間も早かったし、街には人の数が少なかった。

 グアナファトの中心地からバスで40分ほど離れた、小さな町に行った。ここでは、さらに子どもの数が多く、みんな外で遊んでいた。この町に住む友だちは6人きょうだいで、一番上が24歳、一番下が9歳。上のふたりはすでに結婚していて、共に4歳の子どもがいる。下のきょうだいと自分の子どもの年があまり離れていないのは、ここではよくあること。きょうだいが20歳離れていることもある。20歳も離れたきょうだい、私たちの感覚ではあまり想像できない。この町は決して、裕福ではないが、言葉にできない愛情であふれている。

 私はひとりっ子でも愛情をたっぷり注げばそれでいい、と思っていた。しかし、実際にきょうだいがたくさんいる中で育つのは、また違う幸せがあると思った。裕福ではないけれど、たくさんの自分の子どもたちに囲まれて生活する。お金に勝てない愛とはこれのことだと思う。ここに来て、それを感じることができた。

 また、働き者の子どもたちもいる。子どもたちが、親の仕事を手伝っている風景をよく見かける。市場に行けば、小中学生が、一人前に野菜・果物を売っている。慣れた手つきで、グラムを量り、野菜を切る。また、大きな荷物も肩に担いでせっせと運ぶ。小さい頃から、物を売るということと親の働く姿を身近に感じることは、お金を稼ぐことの大変さを実感することができるのでいいことだと思う。

 マイラ17歳(高校生)といとこのオウランド14歳(中学生)の2人は、毎日、小さなお店の店番をしている。このお店は、マイラの両親のお店だそうで、マイラは朝の7時から10時半まで高校に行き、11時から夜の10時まで店番をする。もうお店のお手伝いをして4年になる。オウランドは3時から8時まで店番を手伝う。今年で2年目だそうだ。両親が仕事とまだ小さな妹の世話で忙しいので、自分たちがお店を見ているそうだ。2人とも中学生のときから、働いている。2人はお小遣いかせぎだよと言うけれど、毎日毎日休みなく働いているのだ。(メキシコも日本と同じで、中学生までは正式には働くことはできない。)

 マイラは遊びたい盛りの高校生。遊びに行ったりしないの?と尋ねたところ、「オウランドが来たらたまに遊びに行くわ。でもまた、8時に戻ってこなければならないけどね」と笑いながら言っていた。遊びたいけれど、ちゃんと時間は守るし、なんで手伝わなければいけないの?といったことは、一度も言ったことがないようだ。家族に対する愛情はとても深く、家族全員が尊敬しあっている。だからマイラも、毎日店番をすることを嫌だと思わずに受け入れられるのだと思う。

 家族が最も大切で、家族にまさるものはない。そんなメキシコ人の生活を見ていて、だからこそ思う。どうしてストリートに子どもが出てしまうのか。それが貧困なのだろう。私はここで、いわゆる一般階級の人々の生活を身近に感じることができた。グアナファトでは、「ストリートチルドレン」と呼ばれる子たちを見かけたことがない。この街にはいないのか?世界遺産だから?小さな町だから?次回はそれについて書こうと思う。              

(写真はマイラ(左)とオウランド(右))

(やました ちか・学生)

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