バングラデシュ「ストリートチルドレンをうむ社会」

〜NPO「シャプラニール」の講演会を聞いて〜

 今日も仕事に行ってきます。(ドロップイン・センターにて)シャプラニール提供写真

 

                      報告・工藤律子(運営委員)

 

 11月26日(土曜)、東京・早稲田奉仕園にて、NPO「シャプラニール=市民による海外協力の会(以下、シャプラニール)」の前ダッカ事務所長・白幡利雄さんの講演会がありました。私たちの会の運営委員の一人が、この「シャプラニール」で働いていることもあり、メールで案内をいただいた私と運営委員の松本裕美さんは、4部に分かれている講演会の第一部、「ストリートチルドレンをうむ社会」を聞きに行きました。この日の講演会全体のテーマは、「変わるバングラデシュ、変わらない貧困問題」です。

 講演者である白幡さん(37歳)は、2001年から4年間、バングラデシュの首都ダッカで、「シャプラニール」の事務所長として活動された方です。

 まず最初に、バングラデシュの「ストリートチルドレン」に関する簡単な説明がありました。この国には現在、445,000人の「ストリートチルドレン」がおり、そのうち335,000人はダッカにいるということです。その大半は、貧困地域(スラム)や路上に家族と暮らしています。子どもだけで路上生活をしているのは少数派で、ダッカ市内全体で10,000人ほどだと言われているそうです。

 子どもたちが路上暮らしをしている理由には、メキシコシティなど他の都市の場合とほぼ同じことが挙げられました。路上生活者には女の子が少ないこと、それは家政婦や売春婦などにされて、人目に付かない所で搾取されているからだということも、同様でした。が、子どもたち全体の路上での暮らしぶりは、メキシコシティとは少し違うようでした。

 「シンナーやヘロインを売ったり買ったりする子どももいる」とはいえ、バングラデシュでは薬物に深くはまっている子どもは、幸い少数のようです。これは、路上生活をする子どものほぼ100%が薬物依存であるメキシコシティとは、大きく異なります。いずれにしても、子どもが薬物に関わっていること自体が、大問題ですが。

 また、路上暮らしの子どもたちの仕事も、リサイクル用のゴミ集めや花売りなど、アジアの都市で多く見られる内容が主なようでした。食べていくために皆、懸命に働いています。

 「シャプラニール」では、2000年から、この「ストリートチルドレン」に対する支援活動を始めたということです。その背景には、バングラデシュで1990年代に入って都市化が進み、ダッカの人口が急増、その中に多くの貧困家庭が含まれていたために、路上で働き暮らす子どもが増えた現実があるといいます。かつては国民の圧倒的多数が農村に暮らしていたのに、1998年には全人口の25%以上が都市に住むようになっていたそうです。

 産業が農業中心から工業・商業に移行するにしたがって起きる「急激な都市化」が、都市スラムを生み、無学なために仕事にありつけない大人たちや都市の路上で働かざるを得ない子どもたちをどんどん生み出してきたのは、メキシコやフィリピンなど、「ストリートチルドレン」が大勢いる他の国々にも共通する現象です。

 そんななか、「シャプラニール」は、地元のNGO「オポロジョエ・バングラデシュ」が運営する2つのプログラムを支援しています。その1つは、「ストリートスクール(路上学校)」です。

 「ストリートスクール」は、スタッフが約1年かけて、場所を選んで管理している人たちと交渉し開設にこぎつけた、路上の学校です。路上で働く子どもたちが大勢いる地域にあり、毎日、同じ時間に開校します。現在この学校に参加しているのは、午前中に約40人、午後約30人の子どもたちだそうです。その大半は、親とスラムに暮らしながら、路上で働いています。(講演後に事務所で見せていただいたビデオで紹介されていた学校は、バスターミナルの一角にあり、きちんと屋根のあるスペースに質素ですが黒板や長机も設置されており、大勢の子どもたちが文字や数字を書いたり、絵を描いたりしていました。)

 もう1つのプログラムは、「ドロップイン・センター(一時滞在所)」です。こちらは、子どもたちが安心して過ごせる場所を提供しようと、毎日24時間体制で動いているそうです。そこにはシャワーを浴びたり、着替えをしたり、モノをしまっておく設備があるほか、給食やテレビ鑑賞時間、レクリエーション時間、学習時間、裁縫や紙嚢作りなどの技術訓練など、様々な活動も用意されています。また、センターで寝泊まりすることも可能だそうです。

 スタッフの温かい対応と安心できる環境のおかげで、センターには路上暮らしの子どもたちが大勢訪れるそうです。今、センターを利用している子どもたち90人あまりの約半数が、そうした子どもだと言います。路上生活をしている子どもたちは、生活が不規則なうえ、緊張する毎日を送っているため、センターに来るとほっとするのか、長い間床に転がって寝ている場合も多いそうです。
 
 ほかの国、都市にある「ドロップイン・センター」と呼ばれる施設と同様、ここでもセンターに来る子どもたちは、必ずしも一定していません。毎日のようにやってくる子どももいれば、1日しか来ない、何ヶ月も経ってからまた来る、といった子どももいるそうです。それでも、ストリートの子どもたちにとっては、必要な時に頼れる場所、人が存在することが、大きな意味を持つと言えるでしょう。

 最後に、今後の課題について話がありました。

 まず、女の子への支援、です。すでに述べたように、女の子は路上では余りみかけず、問題を把握するのも、支援を考えるのも難しい対象です。

 白幡さんの話では、バングラデシュには行政の許可書を持つ「公認」の買春宿が14カ所もあるそうで、そこでは未成年を含む、貧困家庭の少女・女性が働いているといいます。客は、役人やタクシートラックなどの運転手、警官。彼らを相手に、少女たちは、場合によっては夜道にゴザを敷いて「サービス」を提供するという話。(これは、ベトナムのホーチミンでも見かけました。)1度の「サービス」につき、もらえるお金は数十円から数千円。そのお金のほとんどは、宿主に持っていかれるのでしょう。

 そうした買春宿を守っているのは、ワイロをもらった警官たちだといいます。メキシコシティの子どもたちの薬物依存問題にしろ、バングラデシュの買春問題にしろ、「ストリートチルドレン」やその予備軍を襲っている危険の背後には常に、警察権力、政治権力の腐敗が存在することは、どこの社会でも共通のようです。
 大人社会の闇の側面に巻き込まれている少女たち。彼女たちへの支援を行うために、まずその問題の実態を調査することが急務だと、白幡さんは話されました。
 もうひとつの課題は、地域の有力者や大人たちの責任を喚起する活動を行うこと。そして、子どもたちが持つ多様な将来像に対応できる形での支援を考えること、ということでした。私たちの会が支援するメキシコシティのNGOにおいても、同じことが課題とされ、取り組まれています。

 場所によっては、「胡散臭い存在」「社会のゴミ」として虫けらのように殺されることすらある、路上の子どもたち。彼らのような立場に追い込まれる子どもを減らし(できればなくし)、すでに路上にいる子どもたちには「ふさわしい未来」を手にしてもらうためには、本来その人生に寄り添い導く立場にある大人の意識を変えることが重要であることは、言うまでもありません。そしてまた、子どもたちに「路上生活はあなたにふさわしくない」とわかってもらうからには、それを脱した後の人生に対しても、彼らが希望を抱ける道、選択肢を提供しなければ。

 これは、メキシコやバングラデシュで「ストリートチルドレン」に関わる大人だけでなく、日本に暮らす私たちをふくむ、今の世界に生きる大人がみんな、肝に銘じて考えなければならないことだと、改めて思いました。

★松本裕美さんの感想★

 ストリートスクール(青空教室)というのがある。ストリートで暮らしている子どもより、ストリートで働いている子どもの方が圧倒的に多く参加しているとのことだ。お釣りや給料をごまかされたりしないようにするために、計算を学んだりもする。どんなところで行うのか?もちろん文字通りストリートで行うのだが、そこら辺で適当にというのではなく、例えばバスターミナル。1年も時間をかけて、労働組合などに話をして子どもたちのことや彼ら(NGO)の活動をわかってもらい、その上で場所を提供してもらって行うということだった。周りの人たちに現状をわかってもらうこと、そして地域で協力して現状を改善して行こうという体制をつくるためにも、とても大切なことだと思う。

 メキシコでは、警察官に路上で暮らす子どもたちのことをわかってもらうために、ストリートチルドレンのために活動しているNGOのスタッフが警察へ出向いて学習会をしたりしている。警察官によるストリートチルドレンへの蔑視や暴力をなくすためにも、また活動への理解や協力を得るためにも必要なことだ。

 ドロップイン・センターというものが、ダッカにはある。男の子も女の子も同じ施設内ですごす。安全な場所で寝たい、安心してトイレに入りたい、シャワーを浴びたいという子は、宿泊できる。鍵つきのロッカーを使用することができる。食事は、少額払えば食べることができる。子どもたちの中にはロッカーにお米や香辛料を大切に保管し、その食料を自分で調理して食べる子もいる。制限、ルールはあまり無く、自由に子どもたちが来て、休みたい時に休めるといった感じだ。センターでも寝ていたい子は、柱のそばで寝ている。メキシコにくらべ、文化や子どもたちの成熟度が異なるためか、こんなに自由な環境下にもかかわらず、施設でトラブルは起きていないようだった。(メキシコの路上暮らしの子どもたちの場合だと、どうしても例えば男女が同じ施設で暮らすと、いろいろな問題が起きるのだが。)

 性産業で働かされている子どもたちが大勢いるという。この国では、性産業が事実上、合法的に行われているようだった。ある一定の年齢に達していて、本人が希望する場合は、売春をすることが認められている。しかし、本人が本当に希望しているのかどうか、本当にその年齢に達しているのかどうか、審査できているのだろうか。

 闇では、子どもたちが売買されているような今の世界だ。最初からそうすることでしか生きていけない状況に、自分の意志に反しておかれ、年月が過ぎていってしまったら?その子はある一定の年齢に達した時に、国の審査で、どう自分の意志を示せるのか?そして他の仕事をしたいと言ったら、ちゃんとバックアップする力、体制は国にあるのか?疑問だ。合法的に売春宿の営業を認める前に、闇で被害にあっている子をゼロにまずすべきではないのかと思った。

                                         (まつもと ひろみ・看護師)

   ★「シャプラニール」の活動に関心のある方は、下記のHPをご覧下さい。

           http://www.shaplaneer.org/
   

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