「JICA海外青年協力隊」参加体験記

人生ケ・セラ・セラ

                             

 片桐 功

 メキシコのNGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」から、ナチョが来た。一年ぶりの再会。日本で彼と再会できるなんて思ってもみなかった。相変わらず、周りの人々の「ゲイか?」という視線を受けながら、ハグ&キスで挨拶(残念ながら口と口じゃないよ)。その後、彼はおもむろに日本風にお辞儀をしてあいさつ。うっかり俺もつられてお辞儀をした。と、ちょうど目の前に彼の股間が来たとき、「チュッ!」とナチョがキスの音を立てた。やられた!日本の挨拶をもじった“ゲイ”ネタである。一年ぶりの相変わらずのギャグ。そういえばメキシコにいたときは毎日、このギャグで一日が始まっていたなぁ(ホントに毎朝やっていた!)・・・。などと考えるうちに、徐々に、彼らとの笑いあり、涙ありの、楽しくも辛い(←カライ)メキシコ生活の記憶が戻ってきた・・・

● 簡単に紹介

 ナチョことイグナシオは、「プロ・ニーニョス」のスタッフ。でもって、俺の元上司。ご存知の通り、考える会主催の日本各地での講演会の講師として来日した。そして俺は、ご存知の通り(そんなわけないか・・・)去年の4月まで2年間、青年海外協力隊員として現地のNGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」と「プロ・ニーニョス」で一年ずつ働いていた。

● 何でまた協力隊に?

 きっかけは、大学2年生のとき、たまたまJICAのホームページをみていたら、「今回の募集は明日締め切りです」と出ていて、思わず応募していたこと。昔から「本日限り」や「限定販売」には弱い。免許ももちろん「オートマ限定」(ウソ)。協力隊には以前から興味はあったが、火がついたのはその瞬間だった。

● 初めて「カサ・アリアンサ・メヒコ」に行った日

 今でも鮮明に覚えている。一通りの挨拶の後、子どもたちと食堂で昼食だった。食堂に入るやいなや、彼らがものすごい勢いで俺にいろいろ叫んできた。それまで5ヶ月間、朝から晩までスペイン語の勉強をしたのに何を言っているのか全くわからず、びびった(今考えるに、ほとんどスラングだった)。また、小汚いプラスチックの食器に、映画に出てくる刑務所の食事のように盛り付けられた物体はきびしい味わいで、子どもたちは容赦なく彼らのそれを俺の食器にぶちまけた。床に捨てている子どももいた。なんとも不安な初日だった。(今思うに、たまたまそのときの食事は一年間「カサ・アリアンサ・メヒコ」にいたなかで最もおいしくなかった。普段はそんなことはない。なんとも運が悪い。)

●「プロ・ニーニョス」のいいところ

 メキシコのストリートチルドレンの施設は色々行ってみたが、俺は、「プロ・ニーニョス」は一番いいところだと思う。何がいいのか、考えてみた。

 まず、チームワークがいい。最初に書いたようなくだらないギャグや無駄話に割く時間がべらぼうに多い。というか一日中。しかしこれは、コミュニケーションの手段なのだ。これでちょっとぐらいのあつれきやストレスも解消。言いたいことも言えるようになる。

 そして、プロ意識が強いこと。エデュケイターとして、「プロ・ニーニョス」の一員としての誇りがある。プロとして、何をどうすべきかを考える。これが仕事のクオリティを向上させる。冷静な判断力も育てる。資金である寄付金をしっかり集めるにも、プロ意識が重要だ。

 そして一番大事なのは、子どもと「本気」で接していること。頭の中に冷静な部分を残しながらも、子どもと真正面から接している。子どもと本気で遊ぶし、本気で叱るし、本気で励ますし、本気で楽しむ。信頼とか、愛情とか、言葉だけじゃあ伝わらないものも伝わる。そうして本気で子どもと付き合うと、彼らのためには何が必要か、どうすべきかということが見えてくる。表面的にああだ、こうだと子どもを解釈することは簡単だが、真ん中のところは本気で接しないと見えてこない。この情熱を維持し続けるのはとてもしんどいことだと思う。チームワークやプロ意識が、それを支えているのだ。

●日本に帰ってきて思うこと

 自分の頭でしっかり物事を考えられるようになりたいと思った。自分の頭で考えているつもりでも、あまりにも色々あちこちから言われていると、いつのまにか体に染み付いていたりする。例えば帰国時になじめなかったのが、血液型。毎朝各チャンネルで全く違う占い結果を言っているし、みんな遊び半分なのはほわかっているつもりだろう。でもどこかでA型はやっぱり几帳面な人が多いと思っている人は多い。しかし血液型で性格判断なんて、全く根拠のない話。AB型というだけで変人扱いされて困っている人もいる。血液型を聞かれて答え、「やっぱり〜」とか「エ〜!」とか言われると、無性に腹が立つ。ほっとけ!ってね。(でも、メキシコ人はほとんどO型って聞いたときには、俺も不覚にもナルホドって思ってしまった!くそ〜)

 俺は日本人だし、日本に住んでいるし、日本社会の価値観から完全に離れることはできないけれど、しっかりと自分の価値観で判断ができるようになりたい。メディアや世間で言うことだけが真実だろうか。

●メキシコと日本

 あるメキシコ人が、自慢げに言った。「簡単にいうとメキシコ人は、スペイン人がメキシコの先住民の女を強姦して生まれた民族。だが、メキシコ人は自らの悲しい歴史を笑い飛ばすことができる唯一の民族なのだ!」と。確かに日本だったら悲惨だなぁと思う状況でも、(例えば子どもの奨学金で親父がビールを飲んでいたりしたら!)、メキシコだったら悲壮感は少ない。世界一自殺率の高い国は、日本。で、一番低い国はメキシコなのだそうで。なんか妙に納得。ナチョは不思議そうに何度も、「日本人は何でこんなにつまらなそうにしているんだ?」と言っていた。元気のない学生。疲れきった人々。電車で立って寝るサラリーマン。でももちろん日本には、胸を張って自慢できるところもたくさんある。ナチョはこうも言っていた。「日本にはストリートチルドレンがいなくて、とってもすばらしい!」と。

          

 最後に、「プロ・ニーニョス」やナチョと出会うきっかけをつくってくれた「ストリートチルドレンを考える会」への感謝を述べます。Gracias(ありがとう)!(con besito.キスとともに)          

(かたぎり いさお・学生)

 

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