ベトナムの『子どもの家』を訪れて

                                                会員・山口 香織

 2004年9月に、「地球の歩き方」のベトナムでのボランティアツアーに参加した。ボランティアといっても、子どもたちと触れ合う程度で、私たち参加者のほうがたくさんのことを学ばせてもらった。ストリートチルドレンの支援を行なっている「ベトナムの『子どもの家』を支える会(JASS)」の活動をみることができた。このツアーに参加した理由は、私がこれまで関心を持って学んできたストリートチルドレンを支援しているNGOの活動と比較したいと考えたからだ。

『子どもの家』は、小学校の教師をしていた小山道夫さんが、1992年にベトナムを初めて訪れた際、物乞いをする子どもたちの姿が教え子や終戦後の貧しかった自分の姿に重なり、1994年にフエに設立したものだ。当時のベトナムは、国連で最貧国とされていた5ヶ国の中の1ヶ国だったという。

 JASSの活動は、以下の6つである。

1.ストリートチルドレンの支援

2.ストリートチルドレンのための職業訓練

3.日本語教育

4.障害児のための病院(JICAと提携して4年間支援していた)

5.元ストリートチルドレンのための自立支援(手工芸品の販売)

6.奨学金支給

 活動を始めた当初、フエには150人のストリートチルドレンがいた。小山さん自身が直接路上に出向いて、子どもたちに声をかけ、施設にくるように促していたという。この頃は、「衣食住を満たしてあげる」ことが、支援だと考えていたが、これをいくらやっても子どもは施設に定着しなかったそうだ。そこで、本当の支援をするために、子どもをしっかりとした自立した人間に育てるよう、努力をし始めた。それからは、人作り、人間らしさ、心を豊かにすることを大事にするために、音楽や絵、パソコンなどの「文化」を取り入れている。実際は300名ほど入る施設だが、一人ひとりを育てていけるように、60人しか入れていない。

 ベトナムは、ドイモイ政策によって、社会主義市場経済国家となり、経済発展をもたらした。それまでの社会主義国家から姿を変えていった。資本主義を取り入れることで、国家の経済力が高まる一方、貧富の差が広がっていった。そのため、物質的な豊かさを求めて、子どもを労働させる親が増え、路上で働く子どもの姿が増えていったのだ。経済面では資本主義を取り入れたものの、政治では社会主義のままであるこの国は、子どもの支援をするにも政府の監視の目が入るようである。

 JASSがストリートチルドレンを支援する活動を始めて、2004年で10年を迎えたという。その間に、フエの状況は変わっていったようだ。最初の頃と比べ、現在はストリートチルドレンの姿は減った。小山さんは、経済体制の変化により、貧困が目に見えるものから、目に見えないものへと変化していったのではないかと予想している。実際に、設立当初は、ストリートチルドレンが9割を占めていた施設だが、現在ストリートチルドレンは1割のみで、9割は貧しくて子どもを育てるのが困難な家庭の子どもたちだ。

 9割も占めている貧しい家庭の子どもたちは、一体どのように選ばれてきた子どもたちなのだろうか。「子どもの家」に入れる基準は設けていないという。基準を設けると、ただのお役所になってしまうためだ。ベトナム人民委員会から、JASSのもとへ「貧しい子どもがいるため、支援して欲しい」という要望が来る。しかし、それをそのまま受け入れることなく、小山さんはじめ、JASSのメンバーが自分の目で見て調査をして、本当に困っていると感じた子どもを入学させている。

 「子どもの家」で生活している子どもたちは、労働することなく、学校へ通わせている。JASSが学校と直接交渉をし、無料で教育を受けさせることができるようにしている。学校へ行かない子どもは、ミシンやパソコン、オートバイの修理などの職業訓練を受けている。

 子どもは以下の三つの中から、進路を決定することができる。

1.大学進学コース

2.フエ芸大付属高校進学コース

3.職業訓練コース(最低でも中学までは卒業)

 JASSの方々は、子どもと接する際に、愛情と厳しさのバランスを保つようにしている。表面上だけで優しく接しても、子どもたちは大人の心を見抜くという。子どもの人格を認め、子どもに愛情と厳しさの両方を持って接することで、子どもたちも大人を信頼するようになる。

 現在、子どもの家のスタッフは15人全員がベトナム人である。しかし、子どもの家の運営費は、日本全国及び海外の会員の年会費、支援者からの寄付、国際ボランティア貯金等である。小山さんは、いずれ自分も代表という立場を離れ、ベトナム人によるベトナムの子どもの支援、国作りができるようにしたいと考えているそうだ。

 JASSの活動をみたり、小山さんの話を聞いたりして、子ども一人ひとりをとても大切にしていることが分かった。大抵のNGOでは、18歳くらいになると、施設を出るようにさせているが、『子どもの家』には、20歳の人もいるそうだ。本当の自立をするまでは、最後まで責任を持とうという考えの表れであろうと思った。たくさんの壁にぶつかりつつも、決して信念を曲げず、子どもを支えることに力を注いできて、子どもたちの成長する姿をみることができ、幸せだとおっしゃっていた小山さんを尊敬する。やはり現地へ行き、現状をこの目で確かめ、子どもたちの声に耳を傾け、そこで働くスタッフの声を聞くことは、これから自分の人生を豊かにするためにも、そしてより良い社会をつくっていくためにも必要だと、改めて感じた。

(やまぐち かおり・学生)

戻る