アキコのメキシコ便り〜その6〜

佐藤 明子

 3月に入り、メキシコの気温は、春を飛び越えて夏に向かう勢いで、ぐんぐん上昇しています。そんな今日この頃、私の働くNGO「プロ・ニ−ニョス」では、5日間のキャンプを行ないました。今回の行き先は、モレーロス州にあるテケスキテンゴ。年末のキャンプから、「プロ・ニ−ニョス」の大事なドナーの一人であるホテル・メリア(メキシコシティでも有数の5つ星ホテル)のオーナーが、自宅の一部を私たちに提供してくれることとなり、今回はその家の敷地内でキャンプをすることとなりました。そのオーナーの家というのは、目の前が湖というすばらしい立地条件にあります。今回は総勢21人の子どもを連れて、5人の女性スタッフと3人の男性スタッフの引率で行くこととなりました。私にとって、キャンプはこれで3回目でしたので、以前の2回とは比較にならないほど、リラックスしたものとなりました。これも経験と慣れからでしょうか?また、5人の女性スタッフ中、4人が外国人ボランティアだったので、それもまた私にとっては好都合でした。

 さて、キャンプの1日は、チーム発表から始まります。私はベルギー人のボランティアと6人の子どもを担当することとなりました。チームはキャンプ全体の基本となります。寝床、食事、アクティビティのどれもが、チームを単位として行なわれます。私たちのチームはというと、比較的年齢の低い子どもで構成されていましたから、もう一列に並ぶところから問題が生じるようなありさまでした。

 メンバーを紹介しましょう。ホエル:1番年上。いつもアイディアを出してくれるチームのリーダー。ロドリーゴ:おとなしい性格。はずかしがり屋。モイセス:問題児。いつも怒ってばっかりで、グループに加わりたがらない。リカルド:背は小さいけれど、一番のひょうきん者。ラファエル:最年少10歳。「プロ・ニ−ニョス」にも通い始めたばかり。マックス:最年少10歳。お兄ちゃんのマヌエルと一緒に、2日間遅れてキャンプに合流。以上の6人の小人たちが、私たちのチームです。

 まず、問題となったのは、その年齢の低さです。まだ10歳のラファエル、マックスには、グループ行動自体がかなり難しいことでした。とにかく、目を離すとどこかにいってしまう・・・探しに行って見つけても、逃げる!!隠れる!!私はおまえと“隠れんぼ”や“鬼ごっこ”をしているんじゃないんだぞぉ!!と言いたくなるくらい、彼らはハチャメチャに、私たちを疲れさせてくれました。

 もうひとつ、歴代のストリートチルドレンの中でも類を見ない問題児のモイセスは、ほんのちょっと気に食わないことがあれば怒り出してしまう子でした。そしてひとたび怒り出せば、全く人の話に耳を貸さないわ・・周りをいらいらさせるわ・・手がつけられません。そんな3人の問題児たちのふるまいは、もちろんほかの子どもたちにも影響を与えました。例えば、一人がチーム対抗のアクティビティに参加しないとしましょう。するとほかの子どもたちも、「何だぁ、それじゃ勝てるわけないじゃないか・・」とやる気をなくしてしまうわけです。

一方、私たちスタッフの仕事は、いかに子どものモチベーションを高めるかにありました。あくまで子どもに主体性を持たせるようにします。子どもが提案した意見を尊重します。どうしてもアイディアがでない時だけは、こちら側から種をまいてあげるわけですがそれ以外は子どもがやろうとすることを後押しするだけです。子どもの機嫌は、実に変わりやすいものです。ほんのささいなことで、機嫌を悪くします。しかし、その反面、タイミングと言葉が合えば、たった一押しで実に大きなエネルギーを発揮してくれます。そして、子ども一人ひとりの持つ力を良い方へ良い方へ導くことこそが、私たちの役割といえるでしょう。

この役割はキャンプだけではなく、ふだんの仕事にも共通します。「ストリートチルドレン」という“くくり”ではなく、一人の人間として見つめ、それぞれに合った接し方を考えていかなければなりません。その点に関して、「プロ・ニ−ニョス」のスタッフは、とても優れた観察力を持っています。彼らは、子どもそれぞれの特効薬を知っています。例えば、問題児モイセスの場合、彼が常に周囲の関心を引きたがっていることに気づいていましたし、以前の彼はもっと手のつけられない子どもだったとも言っていました。ですから、彼に関しては、なぜ彼が急に機嫌を悪くして周りに文句を吐き散らすのかを知り、スキンシップでもって、粘り強く近づくことが大事だと教えてくれました。私にとって、子どもの光る部分を引き出すという過程は理解しやすいのですが、なぜ機嫌を悪くしたのか、なぜ参加したがらないのか、どうすればそれを解決できるのか、を考えることは難しいものです。しかし、少なくとも、彼ら自身の態度から常にシグナルが発せられていることは、頭に入れておこうと思います。

 さて、最後に、今回のキャンプをまとめると、どうやって子どもの力を導き出すかというプロセスと、そこから発揮された子どものエネルギーと成長を目にすることができて、すばらしい経験になりました。そしてその場に加わり、その内側で変化を感じられたことで、私自身も成長できたと思います

 

(さとう あきこ・学生) 


サユリのメキシコ滞在記〜その5〜
 

徳満 小百合

 今回も、私がボランティアをしている日本語学校「中央学園」について、報告したいと思う。特に、今直面している様々な問題点に触れたい。それには、学校経営の問題、授業が年少者対象のために引き起こされる問題、日系社会が直面している問題など、いろいろな要素が絡まっている。

 最初に、学校の歴史を簡単に紹介しよう。今年で60周年を迎える「中央学園」は、日系人子弟への日本語教育を目的に設立された。以前、日系人子弟を対象にした学校は、「中央学園」を含め、メキシコシティに4つあった。そのうちの3つが吸収合併という形でひとつ(「リセオ・メヒカーノ・ハポネス」)になり、「中央学園」はそのまま形を残した。 

 日系人子弟を対象にして始まった「中央学園」も、今では生徒の大半がメキシコ人となり、日系人は3割のみである。しかも彼らは3世以上であり、家庭など学校以外の場で日本語を使う機会は、ほとんどない。また、以前は毎日あった授業も、今では週3回に減り、レベルもやはり、昔に比べれば落ちてきているという。

 学校経営の問題に、話を移そう。まずは先生の確保の問題がある。

 週3回2時間ずつ、という中途半端な時間と給料の低さから、長く働いてくれる先生を見つけるのは、大変である。メキシコ政府からの援助は受けていないことも、給料の低さの一因である。以前から、政府の学校として認められるように申請をしているとのことだが、その申請が通るのは難しいようだ。

 また、経済的な問題以外に、ここでの授業が「子どもに対する教育」であるということも、ある種の問題を引き起こしている。日本語教育の“教授法”をしっかりと学び、知識を蓄えた教師にとって、年少者への教育は物足りないもの、と言われているからだ。言語教授法は多くの場合、大人の学習者を対象としており、言語教育半分しつけ半分、の子どもたちに対する教育に、やりがいを感じない人たちもいるという。これはメキシコだけでなく、中南米全体の年少者対象の語学学校で、共通の問題であるらしい。

 メキシコでは日本語教師の地位は低く、当然給料も少ない。その給料だけでやっていくのは大変で、多くの日本語教師は、夫にそれなりの収入がある女性、それほど稼ぐ必要のない人たちである。 

次に、日系社会に注目したい。日本にはJICAなど、中南米の日系社会を支援している組織がある。しかし、その支援は徐々に減っており、今後もますます減っていく、あるいは完全になくなる可能性もあると言われている。「海外の日系社会を支援し続けて、日本に何か利益があるのか」ということが疑問視されていたり、「日本以外の国は、海外にあるその国の社会を支援していないのに、なぜ日本だけがそんなことをするのか」と言われているからである。実際、日系社会ボランティアの数は年々減らされているうえ、JICAもシニアボランティアのいる所には青年ボランティアは配置しない、任期の延長は認めないなどしており、少しずつその影響が出てきている。「中央学園」では、ここ10年ほど続けて、シニアボランティアや青年ボランティアによる支援が続いている。しかし、今後もその支援が持続されるかどうかは、さだかではない。

 日本からメキシコへの初めての日系移民が、チアパス州・タパチューラに到着してから、すでに100年以上経つ。タパチューラでも、日系人のメキシコ化はかなり進んでおり、日本の名字を持っていても日本語が話せない人も大勢いるうえ、日本語学校を開いても人が集まらないこともあるという。少なくともメキシコシティでは、年に何度か日本の行事が催され、日系人が多く集まる場があるが、そこに集まるのはやはり年配者が多い。ほかの日系人と今でも深く関わっている年配の日系人が多くいる一方で、若い人たちが徐々にそのつながりを失ってきているのは、事実である。それは、ごく当然のことだと思うのだが。

 重要なのは、日系人が基礎を築いた日本語学校や、毎年開催している行事に、時代が変わった今では、一般のメキシコ人が興味を抱き、それらを必要としているという点である。「日系社会はもう支援しない」という考え方ではなく、メキシコ人か日系人かを問わず、現地の人々に必要とされながら経済的な問題を抱えて経営困難になっているところに、支援が行き届くよう考えることが、大切なのではないだろうか。そうしてほしいと、私は思う。                  

(とくまん さゆり・学生)

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