アキコのメキシコ便り〜その4〜

佐藤 明子

 メキシコ留学も残すところ半分となりました。もし私が普通に大学に残っていたら、今頃は就職活動と卒論のテーマ絞りに追われていたかと思うと、こうして貴重な休憩をとれたことを改めて幸せに思います。

 さて、今月は、私の中で特に成長があった月でした。というのも、私の働くデイ・センターではふだん3人のスタッフと2人のボランティアで運営してきたのですが、今月は他の機関から派遣されていたスタッフの1人が担当の期間を終えたことと、仲の良かったアメリカ人のボランティアが1ヶ月間里帰りしてしまったこと、おまけにデイ・センターのトップのスタッフが1週間の休暇をとったことで、とにかく人手が足りなかったのです。そうなると、それまでは他の人にまわされていた仕事が、嫌でも私にまわってきますし、何だか本当にせかせかした日々を過ごしました。ただ、こうしてたくさんの仕事を持ち、責任を与えられることは、私自身にとってすごくうれしい経験でした。これまでは、「誰かを手伝う」という感覚が私の行動の基本になってしまっていて、自分が引っ張っていくことにやや抵抗や引け目を感じていました。それが半ば強制的に崩されたことで、これまでよりも自分らしさを出せるようになりました。

 私は自己主張も強い方ですし、感情的にもなりやすいですし、そういう面はプラスにもマイナスにもなるのですが、そういう面を出していくことがごく自然なことであると思うようになりました。子どもからも、これまで以上に質問をされたり、頼りにされたりすることが多くなりました。最初は「何だ?この変わりようは・・?」ととまどいましたが、きっとそれは私自身の態度が変わったことにも影響を受けているのだと感じます。今では子どもをしかることも、子どもと真剣に話をすることもありますし、自分で子どもとの距離感を調整していこうとしている段階です。子どものやった事には、見逃していいことと見逃してはいけないことがあります。その区別をしっかりして、見逃してはいけないことは、その時その時に子どもに伝えなければなりません。良い事であれば“ほめる”、悪いことであれば“悪いことだと理解させる”ことが大切です。

 と、こんな風に話をしていたら、何だか新任教師の日記のようになってしまいました。そこで、後半はストリートチルドレンについてもう少し話をしましょう。

 私の働くNGO「プロ・ニーニョス」では、子どもが通りの生活をやめて、家族のところへ戻ったり、定住ホームに入ったりするところまで、支援をしています。この段階で最近私たちが抱える問題というのが、3点あります。・子どもが「プロ・ニーニョス」に依存しているケース・子どもが18歳以上であるケース・子どもに“ガールフレンド”がいるケース、です。

 まず・に関しては、デイ・センターに来ている子どもの多くが、「プロ・ニーニョス」に何度も出入りをくり返していることがあります。そして大半は、「プロ・ニーニョス」に好んで通うものの、ほんのささいな出来事でデイ・センターに通うことをやめ、また数ヶ月、数年の期間を経てやってくるのです。ですから、前進してはスタートに戻ることがくり返されます。次の段階に進むには、続けて通うことが絶対条件なのです。そして「プロ・ニーニョス」は、あくまで通りの生活をやめるための過程でしかないことを、前提としなければなりません。

 ・については、「プロ・ニーニョス」は18歳以上の少年は扱わないという決まりがあることを、最初にお話しておきましょう(メキシコでは18歳以上は「大人」と見なされる)。ただし、少年の中には、たとヲ18歳以上でも年齢を1、2歳ごまかして通ってくる子もいます。そういう少年に対して、強固に扉を閉ざすことはやはり不可能なのです。その際は、特に集中的に一対一でスタッフと話をし、ある程度決断をせかす必要が生まれます。

 ・については、最近、何人かの少年がこのケースで、次のステップに進むことが難しくなるということがおきています。私たちが対象としている子どもは15歳前後の少年ですから、たいていガールフレンドがいます。通りで一緒に暮らしているケースも少なくありません。そうなると、少年がいざ通りの生活をやめるとなった際に、そのガールフレンドはどうするのか?という問題が生まれます。また、彼女たちがその決断をゆるがすことも多々ありますし、彼女たちが妊娠していたり子どもがいたりするケースは、さらに複雑になってきます。このケースは、「プロ・ニーニョス」が現時点で持っている機能をこえた配慮を必要としますし、正直一番困った問題なのです。

 「1人でも多くの子どもが通りの生活をやめる」ことは「プロ・ニーニョス」の第一の目的です。しかし、たとえ多くの子どもがデイ・センターに通ってきたとしても、この目的が達成されるにはまだまだ多くの問題があることを痛感します。

 では。また来月。 

(さとう あきこ・学生) 


サユリのメキシコ滞在記〜その3〜
 

徳満 小百合

 最近、望まぬ妊娠をしてしまったラテンアメリカの少女たちを取り扱った新聞記事を読んだ。ストリートチルドレン問題とも少なからず関係するテーマなので、この記事をもとに今月はレポートしたい。

 まずこの新聞記事によるとラテンアメリカの35〜52%の少女たち(14〜18才)が望まぬ妊娠をしていると言うことだ。またUNICEFによると15〜25%の出生は幼い母親からのもので、そのため母親自身が命の危険にさらされる確率も高いそうだ。またそういった少女たちの母親自身も、同じように若くして妊娠・出産した人が多いという。情報不足により、HIVや性病に感染してしまう危険もある。望まぬ妊娠を引き起こす原因はいくつかあるが、第一に避妊方法や性的行為が体にどういうことをもたらすのかについて、無知であることだ。別の理由としては、親の無関心や虐待・家での孤独感、アルコールの勢いで性的行為に走ってしまうことなどが挙げられる。また避妊用具を買う経済力がなかったり、他のことにお金を使いたがる若者も多いそうだ。

 少女が望まぬ妊娠をすると、学校を辞めてしまったり、職を失ったり、時には命の危険にさらされることもある。そして何より、妊娠に直面し、どうすればいいのかわからなくなってしまう。選択肢としては・新たな命を受け入れる、・養子に出す、・中絶する、ということが考えられる。メキシコでは中絶は、レイプされての妊娠など、いくつかの条件を満たさない限り、一般に違法行為とされている(州ごとに、法律が微妙に異なる)。そのため、医療機関に行くことは心理的に難しく、中絶を決意した場合、たいていは闇市の医者に頼ることになる。このため、少女の体への危険性が大変高いそうだ。若いうちに妊娠してしまった少女は、母親としての能力が未熟で、妊娠はフラストレーションを引き起こす。さらに栄養不足や喫煙、飲酒などがさらに胎児に悪影響を及ぼすのだ。少女の妊娠に伴う母体への負担は、目には見えないが大きい。しかも親に妊娠を隠すためにきつい帯を締めたり、赤ちゃんの体重が表に出ないように食事を控えたりする少女もいるとのことだ。そのため吐き気や疲れなどの妊娠の症状が悪化してしまう。

 胎児への影響も大変大きい。若い母親から生まれた子どもは体重が足りなかったり、早産で生まれたりする。そのため器官が未熟だったり、呼吸や脳に障害があったりして、はじめの一ヶ月で亡くなる確率が40倍も高いらしい。

 メキシコにも、こういう少女や子ども達に対して、支援・プログラムを提供する団体がいくつかある。まずDIFである。この団体は主に、12〜20歳で妊娠してしまった経済力の乏し「少女を支援している。またPAIEAというプログラムを持っており、妊娠した少女に自分自身をケアする方法を知ってもらうことを目的としている。必要に応じて職業訓練や経済的支援も行なっているそうだ。無料の検診を提供したり、ミルクや哺乳瓶など、子どもに必要なものを無料または50%割引で支給したりしている。専門的な婦人科のサービスもある。また中学生を対象に、子どもを持つことの責任をわかってもらうことを目的とした教育も行なっているそうだ。

 次にGIREという団体がある。これは性や健康、薬や医療器具の短所・長所、不妊手術にいたるまで、様々な情報をメキシコに広めることを目的にしている団体である。そのほかにも避妊方法、合法な中絶、性的虐待に苦しまないための情報なども提供しているそうだ。

 若い母親たちに対して上記の団体のように支援、情報提供をすることは非常に大事であるし、もっと多くの人にそういう機会を利用してほしいと思う。しかしながら、いったん望まぬ妊娠をしてしまうと完全な解決策はありえないのではないかとも思う。最終的な決断を下すのは若い母親自身であり、心理的・経済的な負担を被るのもまた、母親自身だからだ。そして、そのフラストレーションが生まれてきた子どもに向けられる場合も多い。悲しいことに、こういった悪循環が続いている。それを断ち切るための予防策をもっと充実させなくてはならない。

 例えば事前の予防手段として、学校で性教育を行なったり、家族の絆・信頼をもっと強めたり、テレビなどのマスメディアを用いて情報提供をすることが考えられる。今回のこの記事のように新聞で事実を伝えることも有意義である。そしてそのためには、社会全体の理解、協力、関心が不可欠だと思った。 

(とくまん さゆり・学生)

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