メキシコ滞在報告(滞在期間 2003年8月4日〜14日)
会員・宮田真理子
1.NGO「カサ・ダヤ」訪問(8月7日(火))
*読書会とおしゃべり
前回(2001年10月)訪問時、友達と二人で、『花咲じいさん』の朗読会をやった。ダヤには、保育所もあり、子どもたちへの本の寄贈は喜ばれるため、今回も本を持って行った。前回、ビクトルさんから、「スペイン語訳を付けて欲しい」と言われた反省を受けて、今回は事前に、各頁に訳を貼り付けた。
本は、私自身気に入っている佐野洋子『百万回生きた猫』。主人公の猫は、愛情や生きる喜びを知らないまま、百万回の生と死を繰り返す。そして、それを知った時、初めて一度の人生を大切に思うが、以後は二度と生きかえらない。この物語から、ダヤの女の子たちにも、愛情や生きるということについて、感じ、考えて欲しい、と思った。
ダヤに着くと、時間の空いている女の子は全部で4人しかいなかった。その他の子は、夏休みコースや、仕事に出かけている、とのことだった。とりあえず、彼女たち4人と、赤ん坊4人とで、芝生に座って読書会をやった。めいめい、子どもの髪をとかしたり、洋服を着せ替えたりしつつの参加となったが、話には耳を傾け、笑ったりして、聞いてくれた。あまりうまく質問できなかったせいもあって彼女たちが、このストーリーを自分に引き付けて考えるところまでは持って行けなかったが、話の内容は理解し、楽しんでくれたようだった。
終わると、「他にはないの?」、「本もいいけど、日本についてもっと教えて。日本人は大抵やせているのに相撲レスラーはなぜ太っているの・・・」といった質問を浴びせられた。女の子たちは、日本料理にも、かなり関心が高いようで、料理教室をやると喜んでくれそうだと思った。
*所長のギジェルミーナさんとの会話
気になっていた「私が知っており、既にダヤを去った女の子たちのその後」については、簡単に以下の情報だけ伝えてくれた。
・コンチャ: 結婚相手、娘と元気に暮らしている。
・オルガ: 娘とほかのNGOで暮らしている。
・ガビィ: 息子と母親の家で暮らしている。HIV検査の結果は聞けなかったが、体調はあまり良くないというニュアンスだったので、陽性だったのではないだろうか。気になる。
この日はちょうど、「カサ・ダヤ」職員中、中心メンバー5人が集まって、運営戦略について考えているところだった。組織図作成、成果の振りかえりと不足点の洗い出し、将来ビジョン等を大判紙に書き出して壁に貼りつける作業をしていた。これをまとめたものは、ある財団へ提出する、とのこと。経営/運営戦略はまだ始めたばかり、そこで挙げられた課題への取り組みはこれから、とのこと。
残念ながら、ギジェルミーナさんとは、10分しか話せなかったが、現在、一番の課題は、
・少ない給与でも働いてくれる能力のある人材確保。・自立運営のための資金源確保。
であることを教えてくれた。
2.NGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」訪問(8月11日(月)、12日(火))
8月11日(月)
*ストリートエデュケイター同伴
デイセンターにて、子どもたちと一緒に朝食を取った後、エデュケイターのナチョ、ペペと一緒に通りへ。ルート、内容は以下の通り((1)は3人で。(2)(3)はペペと2人で)。
(1)サンタ・アニータ(臨時住宅地跡):再会の約束をした新しい青年エドガルとマルティンを訪問。→道中、まだ幼めの顔見知りの男の子に会う。どのゲームもやりたくない、というので再会の約束のみして、お別れ。→目的地、誰もおらず、置手紙を残す。路上で、キャンディを売って働いているエドガルに出会う。さっぱりした格好。歳の頃、18くらいか。マルティンを探し近くの市場を歩いたが、見つからず。あきらめて次の目的地に向かうことに。
(2). 地下鉄モクテスマ駅周辺: 警察より、モレーロス地区でドラッグを買っている子どもたちが住んでいる、と聞いて、調査訪問。→露天のおばさん等に聞きこみをしながら一帯を探して歩いたが、「15、6歳の子」はいなかった。
(3)ブエナ・ビスタ地区:デイセンターに通っていたが来なくなったチュイとの仕事を見極める最終訪問。→駅周辺でたむろしていた仲間からチュイを離し、大事な話を始める「デイセンターに、帰って来ないのか」。チュイはあまり気のない様子。「洗濯が嫌いだ」という。持って行った絵本を奪い取るようにして読みふける。じゃんけんぽんあっち向いてほい、や日本の歌・その他歌って遊んだりしたが、結局また帰りたいという気持ちが聞き出せなかったため、「訪問打ち切り」という判定が下された。
ストリートエデュケイターの仕事は、従来、計画なしのルーチーンワーク的であったのを、最近、目標、方法、各人の役割等明白にした上で計画的に行う方法へと変えてきた。“初期調査→継続対応→終了作業”、“ 2週間にデイセンターへ連れてくる目標人数8人”等もその例である。また、エデュケイターは全員、自身が毎週カウンセリングを受けており、現在の仕事方法の分析と改善の機会を与えられている。
8月12日(火)… 体調不良にてデイセンター, 路上での活動参加は中止。ボランティアコーディネイターのアルベルト・セルダンさんへのインタビューを実施。
<Q&A>
Q1. 2000年(私のメキシコ滞在時期)と比べ、同問題に取り組むNGO間の連帯に変化はあるか?
A1. 少数のNGO間での特定プロジェクトを通した協力関係は以前より強固、盛んになった。 例えば、「プロ・ニーニョス」では、1997年より、「グアダルパーノ児童施設」,「カサ・サンフランシスコ」 ,「カサ・アリアンサ・メヒコ」等と協力関係にある。しかし、戦略に絡む大きな枠組での協力関係はなく、この点で進歩はない。
Q2. 政府との協力関係は?
A2.PRI(前与党の制度的革命党/中道右派)政権時代のNGOへの資金援助は、個人を対象にしていたが、今日は施設対象へと変化。ただし、ビジョンがなく無計画な支援である点については、変わりない。ちなみに、メキシコ政府の市民活動への出資金は、国内総生産の0.5%で、ラ米では、最低。(例えば、米国では7%)
Q3. 2000年の政権交代後、ストリートチルドレン政策に変化はあったか?
A3. 新政府のPAN(国民行動党/右派)は、カトリック教会・右派系と深い関係にある。NGOは本来、カトリック教会が起源であるものが多く、メキシコも例外ではない。が、これまではPRIが、教会の役割を大きく制限してきたために、上記NGOでは、宗教色より市民団体としての色合いが濃かった。PAN政権になって、カトリック・右派系のNGOへの最優先支援、左派系NGOの無視、という傾向が現れている。「プロ・ニーニョス」はカトリックの思想を原理とする団体ではないが、政府に対して行われる自前プロジェクトのコンクールへの応募を通じて、政府から補助金を得ている。
Q4. 現在、プロ・ニーニョスが直面している一番の困難は?
A4. 規模を拡大し、支援の対象者を増やすのに必要な資金、人材が不足していること。
3.NGO「カサ・アリアンサ・メヒコ」の元職員たち
*マリア・デ・ロウルデス(元ストリートエデュケイター)…約1年前退職
・自宅付近にて自営商店向け宣伝広告デザイン・製作工房を作り、働いている。最近工房内に相談所も設け、今後は、ここで依頼のあった個人、家族対象にカウンセラーの仕事をして、困難の要因について調査する予定。
・将来は、カサ・アリアンサ元職員仲間など、同じ志を持つ人間とストリートチルドレンのNGOを作り、組織にいた時は実現できなかったプロジェクトを実践したいと考えている。
*ミルナ(同上)…約2年前退職
・現在幼稚園の先生。空いた時間で、上記、マリア・デ・ロウルデスの相談所を手伝う予定。
・将来は、自分の幼稚園を持ち、よい先生になることを目指している。
*マルコ・アントニオ(元ストリートエデュケイター、オリン・コーディネイター)…約2週間前退職
・現在小学校の先生。
・将来は、中学、高校の教師の資格も取り、好きな音楽活動にも係わりながら、平穏な家庭生活を送りたいと考えている。
*ルス・マリア(元家庭再統合プログラム)… 約2年半前退職
・プロ・ニーニョス職員 “人生の選択”担当。
4. まとめ
今回、私は約2年振りにメキシコを訪れた。そろそろ友人たちのことが懐かしくなっていたのと、就職して2年目、日に日に忙しくなり、子どもたちのテーマについて考える時間、会の活動への参加機会も限られる中、もう一度メキシコへ行き、五感で感じ、自分の今後の生き方、ストリートチルドレンというテーマへの係わり方について本気で考えたい、と思ったからである。
全行程10日間中、既になじみのあるカサ・ダヤに1日、今回が初めてとなるプロ・ニーニョスに2日間、訪問・活動参加をしてきた。私が2000−2001年留学中にボランティアをしていたカサ・アリアンサへは行かなかったが、親しくしていた元職員と会い、色々話をすることはできた。以下、各々について、簡単な報告と感想を述べる。
☆カサ・ダヤについて
以前と変わらず、安心して子育てできる家庭的で落ち着いた雰囲気があった。
・インフラ改善…共同使用だった少女たちの寝室は、ベッドと机のある個室になっており、建設中だったスタッフ用事務所の2階が完成していた。PCルームには、機器は揃っているものの、稼動はまだとのこと。
・少女たち…穏やかな雰囲気、相変わらず訪問者に好意的。メンバーは、顔見知りの一番古くからいた子たちが去り、新しい顔ぶれが多かった。ただ、知っているおチビさん(アラン)や、妹たちに会えたことで、その親・姉である少女たちには、直接は会えなかったものの、ここでずっとがんばっていることを知れて嬉しかった。定着率の数字は、確認できなかった。
・うまくいっている点…シングルマザーに特化した活動を行なっている、という点では、専門性が高く、狙った結果を出すことに成功している。
・困難な点…資金回収、自立運営。 人材不足。
☆プロ・ニーニョスについて
・スタッフの性格…元気、明朗、活発。
・子どもたち…明朗。互いへの関心が強いように思われた。
※デイセンターでは、洗濯、食事、片付け基礎的生活習慣、様々なクリエイティブな活動や図書館、ゲームルーム、年に一度一週間のキャンプetc.子どもたちを飽きさせずに成長を促す魅力的なプログラムが色々用意されている。これら遊びを通して、路上生活をやめた子どもの総数約300人(デイ・センターに来た子のうちの95%)。
・うまくいっている点…@ボランティアの活用: 動機付けと効果的活用のための制度化
…A対企業宣伝/資金獲得(宣伝部門あり。定期イベント等実施している)
・困難な点…対象者の増大(事業規模拡大)のための資金と人材不足。
☆路上の子どもたちについて
今回プロ・ニーニョスのエデュケイターと歩き路上で出会った子どもたちは、少しずつ棲家を変えているとのことだった。これは、メキシコ市政府が近頃強化している「警察を使った新たな犯罪一掃推進策」のせいもあろう。巡回中、幾人か見覚えのある顔にも出会った。 本人にその気がないために、訪問打ち切りとなってしまったチュイは、2001年初め、私が路上で知り合い一緒にサッカーをしたペカス(そばかす)と呼ばれていた小さい男の子に似ていた。ブエナ・ビスタ地区では、他にも、私の記憶にある顔を見かけたが彼らは私のことを覚えていないようだった。私の方は再会できて嬉しい気持ちと、でもそれが決して喜べる再会ではないために、直後に襲われた暗く悲しい気持ちとの入り混じった表現し難い心境であった。
☆私は何をしよう?
今回、メキシコ訪問の動機でもあった、「私自身、このテーマにどう係わっていくか」ということへの回答は、将来的にメキシコへ住む可能性も含めて、「良い活動をしているNGOの問題点を見つけ、活動がスムーズにいくよう、その部分(恐らく資金回収という課題)を支援したい」というもの。
これを視野に入れ、今後、行うべき自己課題として、次のことを考えた。
・現職(メーカー海外営業)を通じて、NGOに不足しているマーケティングの理論と実践を学ぶ。
・日本の参考にできるNGOを探し、NGO間の連帯や政治へのアプローチ法を学ぶ。
・メキシコの友人たちとメール、手紙を通じての情報交換と信頼関係を継続する。
・会の活動へできるだけ参加する。
・子ども、エイズ、ドラッグ等、関連テーマへの関心を高め、理解を深める。
今回のメキシコ訪問は、私にとって、メキシコへの想い、ストリートで生きる子どもたちへの想い、その問題と闘うことを選んだ人たちへの想い、を再確認するものとなった。この夏感じたことを自分の芯に据え、目まぐるしい日常にあっても忘れないようにしたい。それを忘れず、共に生きる仲間と確認し合い、発展させてゆきたい。
★「カサ・ダヤ」を出た少女たちについての補足?工藤律子★
オルガは、9月21日に突然施設を飛び出し、ドラッグをやってフラフラになって帰宅したため、施設所長の判断で、麻薬依存克服のための施設へ強制収容された。娘は、オルガが「母」と慕う人が預かっている。またガビィは、新たに生まれた娘とその父親(ストリート青年)とともに、別の町で暮らしている。彼女の母親いわく、「HIVには感染していなかった。今はレストランの給仕をして働いている。でも彼氏が暴力を振るうので、悩んでいる。彼氏は左官をしているそうだが、あまり働いていない様だ」