メキシコにおける
子どもの売買、セックス観光、ポルノ、買春について
著者/ノルマ・エレーナ・ネグレーテ
これは昨年12月に横浜で開催された第二回「子どもの商業的性的虐待搾取に反対する世界会議」のために、NGO「カサ・アリアンサ」と「オードリー・ヘップバーン子ども基金」および「ECPAT」が共同作成した報告書『中米とメキシコにおける子どもの売買、セックス観光、ポルノ、買春に関する調査』の一部です。
その7 一般的な結論
この複雑な問題を分析するには、少なくとも2つの大きな側面にわけて、考えなければならないだろう。一つはいわゆる「現状」、もう一つは商業的性的搾取の「増加傾向」だ。両側面において、貧困、社会からの疎外、虐待、家庭崩壊、養育放棄、性差別、移民の波などの問題が、直接の影響を及ぼしている。
そのほかに影響を与えている要素として、「組織的な性商売」がある。
「危機的なのは、言うまでもなく、この問題に社会の構成員=人類全体が関わっているということです。ただ、その人が人間社会の物質的、文化的、法的利益にどの程度の恩恵を受けているかによって、危機の度合いが違っています。例えば少年少女は、まだ利益を生む社会構成員に成長する過程にいる存在ですから、自分たちが直接利益を受けるには,まだ時間がかかります。が、その分、能力の利用法を間違ったり、過剰に評価したりする危険性を最も抱えているともいえます。貧困とそれがもたらす危険な状況が、少年少女を予期しない道へと導くかもしれません。例えば、路上の喧騒や労働搾取、性的搾取、依存症へと・・・。こうした子どもたちが直面する危険の最も深刻で痛ましい例が、性的搾取です」(「ストリートの裏側」1996年)
前述の事柄以外にも、子どもの商業的性的搾取を引き起こし、拡大し、定着させている要素がある。(それらは予防策と適切な時期のケア、そして何より撲滅が求められる。)その要素とは、性的搾取を目的として作られているマフィアの存在だ。彼らは、犯罪マフィアにも容易につながっていく。そして、様々な社会構成員の腐敗を誘い、彼らを抱き込んで、自分たちの目的を達成している。抱き込まれる者のなかには、犠牲者の家族をはじめ、あらゆるレベルの役人官僚まで含まれているのだ。
その8 コントロールするための戦略
性的搾取を行なっている人間のネットワークやマフィアの活動は、彼らが搾取の対象とする個人に対し、どんどんより巧妙で洗練されたコントロール方法を使うようになっている。例えば、性的搾取の行為それ自体が、ショーになっている場合などは、彼らにとってとても都合のよい状況が作られているといえる。
そうした場合、搾取されている女性は、「ダンサー」と呼ばれ、搾取する側=観客の側は、ショーをヌードの「芸術」と考える人から、エロチックなダンスとして見る人まで、様々な人種の集まりとなる。
だから、実際、メキシコの主要都市?ティファナ、ヌエボ・レオン、カデレイタ、カンクン、アカプルコ、メキシコシティ、トルーカ、マサトラン、グアダラハラ、プエブラ、タパチューラなど・・には、この「テーブル・ダンス」と呼ばれるショーをやる店が、どんどん増えている。
こうした店は、商業的性的搾取行為を、芸術ショーという蓑で覆っているにすぎない。現実にはそれは、甚だしく下劣な人権侵害だ。店で働かされている若い女性や少女は、愛情面や金銭面で多くのものに欠けているために、そうした商売にひきつけられる。彼女らの身の上は、闇ビジネスを展開する連中が仕事をするのに、好都合なのだ。
行為の本質を隠すために、それを芸術として扱うのは、搾取側の戦略の一部だ。この戦略にかかれば、若い女性たちは次々と、場合によってはまさか自分が騙されているということにすら気づかぬまま、その罠にはまる。
また、同じ戦略の中で、私たちのようにテーブルダンスを見物する「ライフスタイル」をもたない人間は、「芸術のわからない無知な人間の集まり」、あるいは「売春婦とダンサーの区別すらつかない輩」と見なされている。
こうした操作の罠がいかにうまく機能しているかということは、若い売春婦たちの姿を見れば、一目瞭然だ。彼女たちは自分をアーティストと考えており、巨大な性的搾取ネットワークの犠牲者だとは考えていない。つまり、犠牲者自身に、その自覚がないのだ。
(性的搾取を行う連中の)戦略の中には、また、次のような要素も含まれている。
この一大ビジネスが盛んになる最大の理由は、もちろん、それに従事する女性がほかの仕事よりもはるかに良い収入を得られるという現実だ。
通常、少年少女を性産業に利用するためのキーワードには、お決まりのものがある。産業、マーケティング、よりよい収入、アルコール、ドラッグ、消費、男の欲望と力を示すための女性の利用、性の商業的搾取を通しての抑圧された男の欲望の解放、などなど。若い人達を引き込むには、そうした言葉を並べるといい。
また、チアパス州での例では、搾取の対象である女性を誘導尋問し、脅すこともかなり有効だとわかる。そうされると大抵の女性や少女たちは、自分を搾取している人間への感謝すら口にするようになる。つまり、こんなことを言うのだ。「彼らは私たちのことを移民局に通報したりしないから」「私たちを大切にしてくれる」「私たちは不法滞在者なのに、ちゃんと仕事をくれる」「私たちが祖国で稼げる以上の給金を支払ってくれる」「私たちが米国にたどり着けるよう、助けてくれる」。脅しは、彼女たちをこの商売に引き入れ、留め置くために、最も有効な武器だと言えそうだ。
操作、脅迫、詐欺を使えば、「身体的暴力」はもはやほとんど必要ない。実際、搾取側と被搾取側の間で、(脅迫などを通して)仲間同士のような関係が築かれると、一般に性産業のオーナー、搾取側の利益は上がる。なぜなら、客の前では売春させられている女性たちが雇い主に大切に扱われている時の方が、商売が成立しやすいからだ。女性たちは言う。「オーナーが優しくしてくれる時は、商売が成立しやすいの」
これらの事実は、商業的性的搾取を行なっている産業が、経済の「発展」論理に従って進化、成長、拡大しており、すべては需要と供給の関係に則っているということを示している。更に、その発展は、(性的搾取という)犯罪を、それに関わる人々のライフスタイルに変えてしまうような新たな関係を、次々ともたらしている。
その9 商業的性的搾取の犠牲となった少女や若者
これまでに説明したような状況下では、商業的性的搾取の実際の犠牲者たちは、(特に地方という場所柄では)利用されやすい条件を(無意識に)持つ人々だ。つまり、その話し方、目の動かし方、人との接し方、フィジカルコンタクトの取り方、会話の進め方、しぐさなどが幼く、利用しやすい人間であることを、搾取側に教えてしまっている。
それに比べると、メキシコシティでインタビューした若い女性たちは、明らかにより行動的だ。彼女たちは(不法移民ではなくメキシコ人だから)より自由に行動するし、自分たちの置かれた環境や「ナイトライフ」にも慣れている。だから、働く場所も複数の所を自由に動きまわっている。
とはいえ、私たちは、そうした女性たちの誰もが、商業的性的搾取の様々な構造、条件における、犠牲者であることを忘れてはならない。
通常、売春に関わる若い女性たちは、生活していくための、あるいは生活の向上を手にするための唯一の手段として、自分の体を使っている。それは、多くの人にとって、容易にみえるかもしれないが、実際には拷問のようなものだ。(性産業の)「ビジネスマン」は、彼女たちが貧困からはい上がるために必要としている基礎的な要素(教育、健康、仕事など)を、惜しみなく利用して、儲けている。
(売春婦の)身の上話の中には、商業的性的搾取の問題が、移民だけに関係するのではないことを示す例もある。そこには様々な要素、人物が含まれており、経済的な理由で巻き込まれる人が最も多いわけだが、なかには男性に騙されたり、家族(貧しいとは限らない)が崩壊したり、依存症の問題を抱えていることが原因の場合もある。
最後に、商業的性的搾取の現状において、特にチアパス州での出来事の中で最も深刻と思われる点を指摘しておこう。それは、普通は実直で合法的かつ公正だと期待される役人権力が、自分の都合のために、ひどい場合には搾取側と共謀して、搾取を実行しているという事実。最悪なのは、その現象が、段々「日常化」してきているということだ。その証拠に、(主に活字の)マスメディアは、まるで当たり前の商売であるかのように、商業的性的搾取を行なっている店や場所に、広告面を提供している。
☆ 終わり ☆
(訳・工藤)