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ユニセフ・モンゴル 2000年3月のレポートより
モンゴルの路上&マンホール暮らしの子どもたち
モンゴルの路上やマンホールで暮らす子どもたちの現実は、モンゴル国内外で、大きな注目を集めている。ユニセフ・モンゴルは、そうした子どもたちに対する支援プロジェクトやリハビリプログラムの実施に、今優先的に取り組もうと考えている。
●その背景
1990年以前、(ソ連の)中央集権型政治体制の下にあったモンゴルでは、すべての大人が就業しており、路上やマンホールで暮らす子どもたちは、いなかった。
ところが、ソ連崩壊後、中央政府指導型の経済が消滅していくなか、多くの経済的困難が持ち上がり、貧困家庭の数を増やした。貧困と失業、適切な職業訓練・指導の欠如は、家庭の中に暴力や虐待を生みだし、アルコール依存症など、様々な家庭問題を引き起こしている。盗難や自然災害による財産の喪失が、(何の補償も持たない)家族からすべてを奪い去ってしまうケースもある。
近年のそうした社会状況は、学校に通わずに路上で物乞いをしたり、歌をうたったり、なにか仕事をして日々を過ごす子どもの数を増やしている。そうした子どもたちの中には、家庭の貧困や家庭での虐待を逃れるために、路上へ出てくる子どももいる。一方、ウランバートルの郊外に住み、貧しい家族のために少しでもお金を稼ごうと、昼間だけ街なかの路上で過ごす子どもたちもいる。
警察の住所再確認センターによると、モンゴルにおけるホームレスの子どもの数は、(この場合、両親のいる子、ひとり親の子、家も親もない子のすべてを含む)310人ほどだと考えられる。また2000年3月に公表された人口調査によると、ウランバートルに計380人いることになっている。つまり、およそ400人の「ストリートチルドレン」がウランバートルの街にいるということになる。そのほかに、500人以上の子どもたちが、政府やNGO、国際組織によって運営されるウランバートル市内施設、19か所に暮らしている。これらすべての子どもたちを合わせると、ウランバートルには、計900人ほどのストリートチルドレンがいることになる。
モンゴル全体におけるストリートチルドレンの数は、約3000人といわれている。ということは、モンゴルにいる「3000人」のストリートチルドレンのうち、約310人が文字通り「家がない」子どもたちで、そのほかは何時間か何日かを路上で過ごしている
子どもだということになる。ストリートチルドレンや養育放棄された子どもたちのケアに当たっている職員の大半は、しかし、こうした現実を把握するためには、もっと多くの情報が必要で、「3000人」という数字は正確ではないと考えている。現実の把握が困難な理由の一つは、鉄道駅で物乞いをするために線路沿いに暮らすストリートチルドレンの数やウランバートル近郊地域の路上に暮らす子どもたちの数に関する情報がないことだ。
ユニセフは、養育放棄や貧困の問題に取り組む際、その解決ための支援や制度的なケアと同時に、家庭や地域といった生活の基本単位のなかでの、問題発生予防策や早期の問題発見、早期介入が重要であると、認識している。が、地域に根ざした、家族単位での適切な介入の方法が整っていないために、問題を抱えそうな家庭や子どもたちは、依然として、適切な予防・支援を受けることなく、過ごしている。
●マンホールに暮らす子ども・大人たち
街の下水溝システムにあるマンホールは、大人にとっても子どもにとっても、生活するには危険な場所だ。また、不衛生でもある。ここ数年間、政府はそうした場所に暮らす大人や子どもを施設に移動させようとしてきたが、それでもまだまだマンホールへ戻ってしまう人が大勢いる。
最近、ユニセフ職員の数名が、国立子どもセンターや警察の住所再確認センターの職員と共に、ウランバートルのマンホールと、同市内のダルクハンやバヤンズルク、カンウールといった地域に住む貧困家庭を訪ねた。次に挙げるのは、その時訪問した家族の一部に関するデータだ。(その公表には本人の許可を得ており、氏名はプライバシー保護のために公表しないことにした。)
☆ ウランバートルの第三小地区に暮らす26歳の女性は、現在妊娠中だ。彼女は2人の女性および51歳前後の男性1人と同居している。彼らは、数年間、マンホールで暮らしていたそうだ。
☆ 39歳のその男性は、妻と3人の子どもと共に、トゥール川の南側を走る線路沿いのマンホールで暮らしている。彼は、建設現場労働者だったが、今は働いていない。彼らは、あと2か月そこで暮らすという。男性の兄が、彼らのために住居を探してくれているそうだ。子どもの一人は、生後16か月の赤ん坊である。
☆ 14から16歳の少年数人が、家庭で虐待されたために路上暮らしを始め、その後、さまざまな施設に入ったり、放浪したり、物乞いでお金や食べ物を得ながらマンホールで寝る生活をしてきたことを、話してくれた。
ユニセフ職員はまた、アパートの階段の踊り場や小さな露店、廃屋の地下室、ゲル(モンゴル式テント)に暮らす極貧家庭も訪ねた。更には、少年鑑別所やバット・サンバーにある精神・身体障害者サナトウリムにも行き、そこに暮らす子どもたちのことをよりよく理解しようと努力した。
ストリートチルドレンは大抵、ウランバートルの貧困家庭やダルカン、エルデネットといった都市近郊地域の出身だ。その家族は多くの場合、職を求めて地方から都市へやってきたか、1990年から都市で働きはじめた人たちだ。ストリートチルドレンや養育放棄された子どもたちの出身家庭では、親のアルコール依存や親による子どもの虐待が頻繁に起きている。だから、子どもは家出したり、盗みを働いて警察に捕まったり、迷子になったり、捨てられたりしているのだ。なかには、精神的・身体的障碍を持つ子ども、特別なケアやカウンセリングの必要な子どももいる。
マンホール暮らしの家族や子どもたちは、住宅に温水を供給するためのパイプが走っていて暖かいから、そこでの生活を選ぶ。結果、彼らは冬でも凍えることなく、過ごすことが出来る。とはいえ、多くのマンホール住民は、十分な衣類を身につけていないため、なかには霜焼けや凍傷で悩む人もいる。また、皮膚病や呼吸器系の感染症、性感染症、パイブに触れてできた火傷にも苦しむ。発育不全など、栄養不足による病気も多い。子どもたちは警察や住所再確認センターの医者にかかることができるが、彼らは大抵保健治療に必要な書類を持っていないため、通常の病院での安価な治療を受けることはできない。
マンホールは危険で不健康かつ人の住むべき環境ではないため、政府は、家族や子どもがそこに住み着かないようにしようとしてきた。また、青少年担当の警察や住所再確認センターは、子どもたちをシェルターに連れてきて、出身地を調べ、家族のもとへ帰す仕事をしてきた。
マンホール暮らしの人々は、靴磨きや歌、荷物運びなどの仕事をして日銭を稼いだり、レストランなどで残飯をもらって暮らしている。なかには、空きビンなどを集めてリサイクルショップに売る人もいる。また、ごみ捨て場で食べ物をあさる人もいる。子どもたちの中には、盗みを働いたり、ほかの子どもを脅してお金を奪う子もいる。
ユニセフは、都市のストリートチルドレンや障碍児、ストリートチルドレンを生み出す可能性の高い環境に暮らす子どもたちや家族に、予防とリハビリのサービスを提供している。国立子どもセンターと協力して、政府のプログラム実施の手助けもしている。そして、モンゴル子ども権利センターやセーブ・ザ・チルドレン・UK、ノルウェー・ルーター・ミッションなどのNGOや国際組織の活動も支援している。それらの団体は、地域における家庭の再統合を助け、問題発生を未然防ぎ、早期に問題の根を発見するためのプロジェクトを実施している。
●文化的な注意点
モンゴルの人々が、ストリートチルドレンや養育放棄された子どもたちに対して、どのような感情を持っているかをしっかりと理解しておくことは、この問題に関わるレポートを作成するうえで、あるいはインタビューする相手を理解し、子どもや家庭への適切な支援方法を探るために、とても重要だ。こうした子どもたちや家族に関するレポートを作成することは、しばしば彼らを利用している、搾取していると見られがちだから、彼らの持つ文化や個人を十分に尊重した形で行わなければならない。
モンゴルはとても広い国だが、人口は非常に少ない。その大半はテレビを持っており、国営放送で流れる情報は、一般によく知られている。これまでに、モンゴルの路上やマンホールで暮らす子どもたちに関するドキュメンタリーが幾つか制作、放映されたが、モンゴルの政府やNGO、そして市民は、このテーマにとても敏感になっている。こうした過敏な状態は、たとえその撮影目的が子どもたちへの支援のためであっても、カメラクルーに対する脅迫行為や暴力を招く可能性がある。
撮影クルーは、撮影時に多くの抵抗を受け、驚くことになるかもしれない。ほかの国では、そうしたテレビ番組がごく一部の人々にしか見られないかもしれないが、モンゴルに関する番組は、海外で放映される場合でも、必ずそこに住む大勢のモンゴル人学生や労働者に見られており、その内容が語り広められている。
そうした状況のもとでは、撮影クルーは、できれば警察に同行してもらうなど、事前に予防対策をとっておくことが望まれる。そのためには、政府に撮影許可を得ることが必要だ。また、無意識のうちに危険に巻き込まれないためにも、入国する前に、撮影活動がどういった状況を生む可能性を持つかを、事前に学習しておく必要がある。
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